サブリミナル・インプレッション

~ 男たちを興奮させる音

「車の名前にはCがいい」「女性雑誌はNとMが売れる」「人気怪獣の名前には必ず濁音が入っている」
企画の現場で語られる、これらの経験則がある。これは、ことばのサブリミナル・インプレッション(潜在意識効果)を、経験から言い当てたものに他ならない。

ことばの音には、潜在力がある。発音の生理構造に依存した、人類共通の潜在情報があるのだ。
たとえば、Kの音を出すとき、私たちは、喉を硬く締め、強く息を出して喉をブレイクする。喉をブレイクスルーした息は、最速で口腔内を抜ける。最速で抜ける息は唾液と混じらないので、ことばの音の中で最も乾いている。
K音を発音する度に、私たちは、自分自身の身体で、硬さ、強さ、スピード感、ドライ感の四つの感性の質を体験しているのだ。その単語が、これらの質と直接関係のない意味を持っていても、いやおうなく脳裏には、硬さ、強さ、スピード感、ドライ感の四つの質が浮かぶのである。
この感覚は、洋の東西を問わない。気管から送り出される息と喉、口腔、鼻腔、舌、歯、唇を使って音声を出す人種であれば(私はそれ以外の人種を知らないが)、同じ方法で同じ音を出し、同じ音に同じ潜在情報を共有している。
ことばには、つまり、意味とは別に描かれる潜在意識の印象があり、それは世界共通印象なのである。

ちなみにK音を発した直後、喉は丸く緊張する。遅れてやってくるこの感性の質を、わざわざ取り出すための文字がCなのだ。C表記を使うと、Kの発音から、硬い曲面や速い回転のイメージを優先的に引き出せる。すなわち、車に使えば、金属の流線型のボディと、エンジンの回転を想起させることになる。
実際に、Cを効果的に使った自動車名は多い。カローラ、クラウン、コロナ、カムリ、シビック、コルベット、カマロなどなど。音を風の質のS音に転じさせたものも含むなら、セドリック、セフィーロ、シトロエン、シボレーなども挙げられる。
「車の名前にはCがいい」という経験則は、発音の生理構造が脳に送り込んでくる感性の質の演算によって、科学的に証明できるのである。

脳には、感じる部位(小脳と大脳右半球)と、考える部位(大脳左半球)がある。
輝く流線型と、エンジンの滑らかな回転を髣髴とさせるCのサブリミナル・インプレッションは、空間認識に長けた男性脳の感じる部位を魅了する。さらにK音の、硬く締めた喉に強く息をブレイクスルーさせる快感は、膨張と放出のイメージを持つ生殖期間中の男性脳をますます興奮させる。ちなみにS音の場合は、風の快感だ。都会派の男たちは、こちらの方が好みかもしれない。
こうして、男性脳の考える部位が意味をうんぬんする前に、感じる部位は勝手に興奮するのだ。勝手に興奮して、男たちは、「採算性を考えれば、自転車とタクシーで十分じゃない?」という妻を蹴散らして、輝く流線型のボディを手に入れるわけである。
ところで、ゲルマン語族の欧車の名前は、ボルボ、ベンツ、ポルシェなど、爆発音(B,P)が累々と並ぶ。エンジンの爆発音に興奮するのか、エンジンの滑らかな回転と流線型のボディに興奮するのか・・・。結局は、男たちの質の違いなのだろうか。
この人類共通の、ことばの潜在意識の印象。知らないのは惜しいというものである。ことばの潜在力に翻弄されるのは、女だって一緒だ。もちろん、Kではないけれど。

私ども(株)感性リサーチは、このようなことばのサブリミナル・インプレッションを算出し、商品名・企業名などブランドネームの感性価値を明らかにしている。
たとえば、「カゴメ」は甘くコクがあり、「キリン」は辛口のキレが身上。「キリン」には甘さとコクのサブリミナル・インプレッションが削ぎ落としたようにないのである。
「カゴメトマトジュース」と「キリントマトジュース」。当然、主婦が手に取るのは前者になってしまう。このように、類似商品が並ぶ棚でつい手にとってしまう商品には、秀逸なサブリミナル・インプレッションが潜んでいる。
ブランドの感性価値評価も、21世紀の経済羅針盤には不可欠な針になるだろう。

【 参考データ 】