サブリミナル・インプレッション【語感】

語感とは

語感は、ことばの発音体感がもたらす、ことばの潜在脳効果(サブリミナル・インプレッション)。
ことばの発音体感は、運動制御を司る小脳を経由して、右脳の潜在意識の領域に、イメージをつくります。筋肉を柔らかく使うことばは、柔らかいイメージを、息が素早く抜けていくことばはスピード感を感じさせます。
たとえば、喉を硬く接着し、その接着点に息を強くぶつけて出す、喉の破裂音K音は、口腔内を最速で抜ける子音。これに伴って、口腔表面が乾きます。このため、K音には、「硬く、強く、ドライでスピード感がある」という印象を喚起させる力があるのです。

「発音して気持ちいい」は、聞いても、見ても、気持ちいい

ヒトは生まれつき、ミラーニューロンと呼ばれる脳細胞効果によって、他者の表情や所作を、鏡に映すように自らの神経系に移しとる能力があります。発音の筋肉運動は、自分が発音しなくても、聞いているだけで想起してしまうのです。
さらに、8歳の言語脳完成期を超えると、文字面を見ただけでも、聞いたときと同じように脳が反応するため、「発音して気持ちいい」は、「見ても気持ちいい」とも同義です。

感性リサーチのネーミング分析術

感性リサーチでは、ことばの発音が口腔にもたらす物理効果を64属性に分解して精査し、語感を数値化ならびに可視化することに成功しました。
大切なビジネスワードが、そのことばに触れる人の脳にどう響いているのか、一目でわかります。

男たちを興奮させる音

1970年代から80年代にかけて、「車の名前にCを使うと売れる」と言われた。
他にも、「女性雑誌はNとMが売れる」「人気怪獣の名前には必ず濁音が入っている」など、企画の現場で語られる経験則があった。これらは、ことばのサブリミナル・インプレッション(潜在意識効果)を、経験から言い当てたものに他ならない。

ことばの音には、潜在力がある。発音の生理構造に依存した、人類共通の潜在情報があるのだ。
たとえば、Kの音を出すとき、私たちは、喉を硬く締め、強く息を出して喉をブレイクする。喉をブレイクスルーした息は、最速で口腔内を抜ける。最速で抜ける息は唾液と混じらないので、ことばの音の中で最も乾いている。
K音を発音する度に、私たちは、自分自身の身体で、硬さ、強さ、スピード感、ドライ感の四つの感性の質を体験しているのだ。その単語が、これらの質と直接関係のない意味を持っていても、いやおうなく脳裏には、硬さ、強さ、スピード感、ドライ感の四つの質が浮かぶのである。
この感覚は、洋の東西を問わない。気管から送り出される息と喉、口腔、鼻腔、舌、歯、唇を使って音声を出す人種であれば(私はそれ以外の人種を知らないが)、同じ方法で同じ音を出し、同じ音に同じ潜在情報を共有している。
ことばには、つまり、意味とは別に描かれる潜在意識の印象があり、それは世界共通印象なのである。

Kの後に奥まった母音u/u/oが続くと、喉の奥が丸く硬く反りあがり、息が回る。これがC表記の音たちだ。
この発音体感が、硬い曲面や速い回転のイメージを作りだす。金属の流線型のボディと、エンジンの回転を想起させることになる。
実際に、Cを効果的に使った自動車名は多かった。カローラ、クラウン、セドリック、コロナ、カムリ、シビック、コルベット、カマロなどなど。
「車の名前にはCがいい」という経験則は、発音の生理構造が脳に送り込んでくる感性の質の演算によって、科学的に証明できるのである。

ちなみに、21世紀の現在、車は「ラグジュアリー」や「子育て家族の便利」「カワイイ」など様々なイメージで買われるため、この法則は適応されなくなった。
もしかすると、若い男子たちが車を買わなくなったのは、そのせいかもしれない。かつてのC表記の車の名前たちは、男たちの脳を興奮させたのに違いないから。

脳には、感じる部位(小脳と大脳右半球)と、考える部位(大脳左半球)がある。
輝く流線型と、エンジンの滑らかな回転を髣髴とさせるCのサブリミナル・インプレッションは、空間認識に長けた男性脳の感じる部位を魅了する。さらにK音の、硬く締めた喉に強く息をブレイクスルーさせる快感は、膨張と放出のイメージを持つ男性脳をますます興奮させる。
こうして、男性脳の考える部位が意味をうんぬんする前に、感じる部位は勝手に興奮するのだ。勝手に興奮して、男たちは、「採算性を考えれば、自転車とタクシーで十分じゃない?」という妻を蹴散らして、輝く流線型のボディを手に入れるわけである。
ところで、ゲルマン語族の欧車の名前は、ボルボ、ベンツ、ポルシェなど、爆発音(B,P)が累々と並ぶ。エンジンの爆発音に興奮するのか、エンジンの滑らかな回転と流線型のボディに興奮するのか・・・どちらも、男心を刺激する要素なのに違いない。
この人類共通の、ことばの潜在意識の印象。知らないのは惜しいというものである。ことばの潜在力に翻弄されるのは、女だって一緒だ。もちろん、Kではないけれど。

私ども感性リサーチは、このようなことばのサブリミナル・インプレッションを算出し、商品名・企業名などブランドネームの感性価値を明らかにしている。

【 参考データ 】